東京地判令和元年6月27日(TPR事件)速報版

1.はじめに
 すでに報道にあるように、令和元年6月27日にTPR事件に係る東京地裁判決があり、納税者が敗訴している。本稿校了段階では、東京地裁判決が公表されていないが、今後の実務において大きな影響を与えると考えられるため、すでに報道されている範囲内で分かる内容に限定して解説を行うこととする。
 なお、詳細な内容については、東京地裁判決が公表された段階で、改めて解説を行う予定である。

2.本事件の概要
 TPR事件とは、平成22年3月1日に行われた適格合併による繰越欠損金の引継ぎに対して、包括的租税回避防止規定が適用された事件である。
 TPR事件の特徴としては、適格合併を行う前に、被合併法人で行っていた事業を別会社に移転したという点が挙げられる。なお、建物、設備が合併法人に引き継がれていることから、合併の直前における被合併法人は完全に抜け殻になっていたわけではない。
 しかしながら、平成28年7月7日国税不服審判所非公開裁決例では、被合併法人で行っていた事業が合併法人に引き継がれずに、繰越欠損金が引き継がれていることから、被合併法人の権利義務を承継するといった通常想定されている合併の実質が備わっていたということはできず、繰越欠損金を引き継ぐために企図された名目的なものであって、実態とはかい離した形式を作出する明らかに不自然なものであるとして、審査請求が棄却されている。
 実務家の中では、建物、設備が合併法人に引き継がれていることから、包括的租税回避防止規定を適用すべき事件ではなかったものとして、納税者の勝訴を予想する声もあったが、結果としては、納税者の敗訴となっている。
 本稿校了段階では、東京地裁判決が公表されていないため、事実関係をすべて把握できているわけではない。そのため、包括的租税回避防止規定を適用すべき事件であったかどうかの判断ができる状態ではないが、すでに報道されている記事の中では、「譲渡損益の計上が繰り延べられる『移転資産等に対する支配が継続している場合』では〔ママ〕、『被合併法人が移転資産等を用いて営んでいた事業が合併法人に移転し、その事業が合併後に引き続き営まれることが想定されている』とした(「ヤフーに続く132条の2否認で原告敗訴」T&Amaster796号7頁(令和元年))」との記述がある。
 そして、平成28年7月7日国税不服審判所非公開裁決例でも、「法人税法第57条第2項が、移転対象事業について継続すると認められる適格合併を前提として設けられていることに鑑みれば、同項が完全子会社の吸収合併において未処理欠損金額の引継ぎを認める趣旨は、合併前の支配関係を前提として、消滅会社の資産及び負債が帳簿価額により親会社である存続会社に包括承継された結果、その移転した資産及び負債を利用した事業を継続することにより従来の課税関係を継続させることを認めたものであると解するのが相当である。」と原処分庁が主張していることからも、東京地裁でも同様の主張を行っている可能性もあるし、裁判所も同様に判断している可能性がある。

3.完全支配関係内の合併で事業の移転が必要なのか
(1)会社分割・合併等の企業組織再編成に係る税制の基本的考え方
 本稿校了段階では、東京地裁判決が公表されていないことから、上記の国税不服審判所における原処分庁の主張が正しかったのかどうかという点に限定して検討を行いたい。
 まず、平成12年10月に政府税制調査会法人課税小委員会から公表された「会社分割・合併等の企業組織再編成に係る税制の基本的考え方」には、以下の記載がある。

「組織再編成により移転した資産の譲渡損益の計上が繰り延べられる企業グループ内の組織再編成は、現行の分割税制(現物出資の課税の特例制度)の考え方において採られているように、基本的には、完全に一体と考えられる持分割合の極めて高い法人間で行う組織再編成とすべきである。ただし、企業グループとして一体的な経営が行われている単位という点を考慮すれば、商法上の親子会社のような関係にある法人間で行う組織再編成についてもこの企業グループ内で行う組織再編成とみることが考えられる。
 さらに、組織再編成による資産の移転を個別の資産の売買取引と区別する観点から、資産の移転が独立した事業単位で行われること、組織再編成後も移転した事業が継続することを要件とすることが必要である。ただし、完全に一体と考えられる持分割合の極めて高い法人間で行う組織再編成については、これらの要件を緩和することも考えられる。」

 このうち、前段を見ると、完全支配関係にある法人間で行われた合併に対して税制適格要件を認めることとしたうえで、支配関係にある法人間で行われた合併にまでその範囲を広げたということが読み取れる。そして、後段を見てみると、支配関係にある法人間で行われた合併に対して、事業単位の移転や事業の継続を要求しながらも、完全支配関係にある法人間で行われた合併では、これらの要件を緩和したということが読み取れる。
 このように、後段部分を強調すれば、従業者従事要件、事業継続要件という具体的要件を緩和しただけであって、基本的な理念からすれば、完全支配関係内の合併であっても、事業単位の移転が必要であるという解釈を導き出すことができる。

(2)平成22年度税制改正
 しかし、平成22年度税制改正では、①譲渡損益の繰延べ、②適格現物分配、③残余財産の確定に伴う繰越欠損金の引継ぎがそれぞれ導入されている。
 『平成22年版改正税法のすべて』189頁では、譲渡損益の繰延べ(法法61の13)も移転資産に対する支配の継続という概念で導入されていることが明らかにされている。事業の移転を前提としない場合であっても、譲渡損益が繰り延べられることから、こちらの整合性は当然に議論となろう。しかし、それよりも問題になるのは、組織再編税制の枠組みに入ってしまった②③である。そのため、本稿では、②③についてのみ分析を行うこととする。
 まず、適格現物分配の制度であるが、現行法人税法上、現物分配による事業の移転を想定せず、完全支配関係内の適格現物分配のみ規定されているという特徴がある(『平成22年版改正税法のすべて』211頁)。そのため、支配関係が生じてから5年以内の適格現物分配に対しては、みなし共同事業要件が認められていない。さらに、「事業を移転しない適格分割若しくは適格現物出資又は適格現物分配」について、法人税法施行令113条5項~7項、123条の9第9項~11項において、繰越欠損金の使用制限、特定保有資産譲渡等損失額の損金不算入の特例計算が定められており、事業を移転しない適格組織再編成が存在することが明らかにされている。
 さらに、『平成22年版改正税法のすべて』284頁では、残余財産の確定に伴う繰越欠損金の引継ぎが、適格現物分配の導入をきっかけに導入されたことが明らかにされている。それだけでなく、「残余財産が確定した法人の欠損金については、特定の資産との結びつきが希薄であることを踏まえ、その移転資産の有無に関わらず、合併に係る欠損金の引継ぎと同様の取扱い」にしたことが明らかにされている。すなわち、事業単位の移転を前提としない残余財産の確定に伴う繰越欠損金の引継ぎが適格合併に伴う繰越欠損金の引継ぎに足並みを揃えていることがわかる。
 この点につき、朝長英樹『現代税制の現状と課題(組織再編成税制編)』337頁(新日本法規、平成29年)において、「本来、個別資産を移転するものは、事業を移転するものとは異なり、譲渡損益を計上しなければならないものであって、『適格現物分配』の取扱いは、本来の法人税法における取扱いとは正反対のものとなっているわけである。」という記述がある。このことからも、現在の組織再編税制、グループ法人税制の枠組みからは、完全支配関係内の合併であっても、事業単位の移転が必要であるという解釈を導き出すことはできない。
 このように、TPR事件では、包括的租税回避防止規定を適用すべき事件であったのかという事実認定の問題だけでなく、組織再編税制の制度趣旨を探るうえで、貴重な判例になる可能性が高い。例えば、TPR事件が平成22年度税制改正施行後の事件であればどうだったのか、平成22年度税制改正後に、合併ではなく、残余財産の確定により繰越欠損金を引き継いでいた場合には、どのような解釈になるのか、様々な議論が生じるであろう。
 そう考えると、TPR事件は、ヤフー事件よりもはるかに重要な判決になる可能性が高い。詳細については、東京地裁判決が公表された後に分析を行いたい。